ダウンロード違法化に反対します

概要

著作権法を所管する文化庁では、「ダウンロード違法化」として、「違法に複製された著作物を複製するのは、それがたとえ私的複製の範囲内だとしても違法とする」というように、法を改正する方針を示しています。この方針での法改正は、

  1. 違法かどうかの境目が微妙であるため、合法であるサービスでさえ敬遠されてしまって、新たなサービスが育ちにくくなり、
  2. 違法かどうかを確かめようとすればその人のネット上の生活をすべて明らかにしなければならず、
  3. 罰則規定がないため実効性に乏しく、その一方で罰則規定を設けたとしたら広く別件逮捕の道具としても用いることができる危険性がある

という問題点があります。私は、このような法改正に反対します。

「ダウンロード違法化」とは

私たちが個人で楽しむ範囲内で、音楽CDなどをコピーしたり、市販のビデオをダビングしたり、パソコンに取り込んだりするのは「私的な複製」として、著作権法上認められています。ネット上に無許可でアップロードされた動画や音楽をダウンロードすることも、個人で楽しむ分にはこの私的な複製として認められています。

今回の法改正では、そのうち、コピー元が「違法な複製」であるもの、つまり、許可を得ないで作られた海賊版や、無許可でネット上にアップロードされた動画などを、それが違法だと知っていながらコピーしたときには、たとえ個人で楽しむ分だったとしても「私的な複製」とは認められず、違法とする、というものです。実際にはネットからのダウンロード以外のコピーも含みますが、今回の法改正が主な対象として考えているのがインターネットからのダウンロードであるため、一般に「ダウンロード違法化」と呼ばれています。

1 「違法なコピー」の見分け方は存在しない

音楽や動画は、著作権者の許可がなければ原則として複製を作ることができませんが、原則にはずれた例外が、著作権法には数多くあります。

引用、私的複製、教育機関等での利用、無料での上演、点字への翻案、報道の一部としての利用、政治上の演説の利用、etc...

許可を得ているかどうかを確認することそれ自体も難しいことですが、それに加えて、上記に該当するかどうかを知っていなければ、音楽や動画が違法にコピーされたものであるかどうかは判断できません。

「AさんがCDショップでレンタルした音楽をコピーしてBさんに貸し、Bさんが仲間とやった入場無料の演劇のBGMとして流し、その演劇を撮影したCさんが自分の勤務する保育園でその録画を上映し、さらにその様子がD社のTV番組でニュースとして放送された」とき、そのニュース番組を録画することは合法でしょうか、違法でしょうか? ダウンロード違法化後はこれが判断できないと、TVの録画もできません。法律の世界では「合法だと思った」という言い訳は通用しません。その経緯を知っていたら、それが法律に違反するかどうかを知っているかどうかに関わらず「違法だと知っていながら」に該当するのです。つまり、ダウンロード違法化は、すべての人が完璧な著作権の知識を持ち、合法か違法か判断することを要求しているのです。

もちろん、そんなことをすべての人に要求するのは無理です。そうするとどうなるか。コピーしたら違法になるかもしれないのであれば、自分が自信を持って判断できないものはコピーしない、というのが普段の行動になるでしょう。実際には、著作権法では問題なくコピーできるものがたくさんあるにも関わらず、です。

ある人が、他の人の音楽や動画を利用したおもしろいネットサービスを開発したとします。そこで他の人の音楽や動画を利用するのは、著作権法に認められた利用法です。でも、確信がない人は「もしかしたら違法かもしれないから」と、そのサービスを利用しません。結果、本当は問題ないものなのに、ダウンロード違法化で人々が「萎縮」してしまい、ユーザーが集まらなかったためにそのサービスは成功できなかった、ということが起こるかもしれません。これは、新しいサービスが生まれたかもしれない可能性をつぶしてしまう、という意味で、ネット上だけでなく、経済全体からいってももったいないことです。

2 違法ダウンロードの判定法は存在しない

「ダウンロード違法化」は、とくにダウンロードをその対象としていますが、ある人が違法にダウンロードしたかどうかを判定するのは、技術的に難しいことです。海外では、音楽著作権団体などが、違法ダウンロードをした人を相手取って訴訟を起こしたりしていますが、その中には相手を取り違えて、何も違法にダウンロードしていない人に裁判を起こしたり、賠償金を請求したりしたという事例があります。

日本で誰かが誰かを「違法ダウンロードだ」として訴えたとします。裁判所が認めれば、訴えられた人の家のPCは証拠として押収されてしまうかもしれません。そして、ハードディスクの中身は関係のあるなしに関わらずチェックされてしまうかもしれません。たとえそれが身に覚えのない訴えであったとしてもです。

さらには、ハードディスクの中を調べただけでは分からない、「ダウンロードした人が違法だと知っていたかどうか」という点を、訴えた人は証明しなければなりません。果たしてそこまでの労力をかけて、違法ダウンロードを訴えることができるのでしょうか。

3 罰則規定なしだと実効性なし、罰則規定があると強力すぎ

現在検討されている法改正には罰則規定がありませんから、これを理由に警察に逮捕されたりすることはありません。ただし、民事裁判で損害賠償を請求されることはあり得ます。その際には先に述べた証拠としての押収などがありえますが、この方針の審議に関わった著作権者団体の代表は「むやみにそういった裁判を起こすつもりはない」と言っています。しかし、ではなぜ、こんな法改正が必要だというのでしょう? 実際に使われないものを法改正する必要があるとは思えません。

一方で、法改正しても何も変わらないのであれば、これに罰則規定をつけて、強制力があるようにするという考え方もあり得ます。仮に「ダウンロード違法化」が逮捕・起訴されうる罰則付きのものになったとしたら、ある人を逮捕する口実として、実に都合のいいものになってしまいます。著作権法については、研究の第一人者でさえ「万人が法律違反の行為をしている」と述べている状況です。

また、現在では罰則のない行為をした人について、警察で「何か逮捕できる理由はないか」と検討した結果、著作権法違反の容疑で逮捕・起訴したという事例が過去には存在します。罰則規定は、このような恣意的な逮捕・起訴を可能にしてしまうという意味で、恐ろしいものであるともいえます。

まとめると、「ダウンロード違法化」の法改正をしても、罰則規定がない状態であれば何のために改正したのか分かりません。一方で、さらに改正して罰則規定をつけたら、あまりに強力で誰でも逮捕できてしまう法律になってしまいます。

解決策はあるのか

ではなぜこのような法改正の方針がでてきたのか。根本には、インターネットを中心として、違法コピーがあまりに広まってしまったという点が挙げられます。インターネットでは、違法に音楽や動画がアップロードされ、それを自由にダウンロードできる仕組みがあり、簡単に音楽や動画を入手できてしまう状況にあります。「ダウンロード違法化」以外の方法で、この状況を打開できるように、私たちも取り組んでいく必要があるかもしれません。私は、次のような方法が有効であると考えています。

1 アップロードが悪であることをきちんと認識する

現在の法律では、音楽や動画を個人的にダウンロードするのは違法ではありませんが、無許可でアップロードするのは著作権法違反として罰金・懲役の対象となります。そのような方法でアップロードされているファイルをダウンロードすることが、違法でないとはいえ、果たして良いことなのかどうか、いま一度考え直してみる必要があるでしょう。違法なアップロードがなくなれば、当然、それをダウンロードする人もいなくなります。

2 違法なアップロードの範囲を再検討する

一方で、現在、違法なアップロードとされる範囲は広く、中には少し使っただけで、元々の音楽や動画の著作権を持つ人には金銭的にも道義的にもほとんど損害が生じないと思われるものもあります。こういったものも違法なアップロードとして取り締まるのは、むしろ「文化の発展」を目的とした著作権法の精神からも行き過ぎに思えます。現在検討が進んでいる「フェアユース」の考え方などを踏まえて、より柔軟な著作権制度を構築することが必要です。ただし、これはあくまでほとんど損害が生じないような場合のものであり、単純なコピーのアップロードなどは、引き続き取り締まられるべきだと考えます。

まとめ

現在、インターネットを中心として、音楽や動画のコピーが蔓延する状態にあるのは事実であり、その状況は改善されるべきだと私は考えます。しかし、「ダウンロード違法化」はその解決策にはなり得ません。取り締まり強化によって、コピー蔓延の温床となるアップロードを断ち、現在違法とされているもののごく一部を合法化し、同時に著作権に対する知識を高めることこそが、この状況の改善につながります。